2022年6月4日 写真展「Futuristic Archaeology」からモンゴルの草原の今に思いを馳せる
腹痛はまあまあ残っているものの、歩けるようになりました。
市内中心部にあるシャングリラ・モールに行くと、期間限定ショップがしばしば出店している広いスペースにこんな写真群が展示されていました。
この写真展は、「Futuristic Archaeology」(未来の考古学)というモンゴルの環境問題をテーマにしたプロジェクトでした。作者は、韓国出身で現在フランスのパリで活動中のDaesung Leeというカメラマンです。現在は社会問題や環境問題をテーマとした制作を行っているとのことです(カメラマン公式サイト)。モンゴルにおけるこの作品展示は、在モンゴル韓国大使館と韓国政府機関共催の「緑化のためのモンゴル・韓国協力グループ(TF: Task Force)」の一環として、在モンゴル韓国大使館の主催もしくは後援で開催されているようです*1。
Lee氏はこの「Futuristic Archaeology」で2017年東京国際写真コンペティションでファイナリストに選ばれました。この作品の解説を以下に一部引用します。
近年、彼ら(筆者註:モンゴルの遊牧民)が暮らしている土地に深刻な変化が起こっており…(中略)…モンゴルの約25%が過去30年間に砂漠化しました。また、潜在的に75%の土地が砂漠化の危険にさらされています。…(中略)…このプロジェクトは、モンゴルでまさに砂漠化が起こった実際の場所に赴き、そこに住む人々と彼らの家畜と一緒に、博物館のジオラマを再現することを試みた作品です。それは、遊牧民という伝統的な暮らしが、将来、博物館のジオラマの中でしか見れないものになってしまうという想像から生まれたものです。
本投稿冒頭1枚目の写真やその次の動画からも分かる通り、実際の風景に砂漠化以前の風景写真が重ね合わされ、過去写真のビルボードの前には博物館展示を想起させるポールが置かれています。このアプローチは、作品解説にある通り「遊牧民の生活が、今まさに現実と仮想空間である博物館のはざまに存在している、という感覚」を鑑賞者の私に生み出しました。この衝撃的な写真展は、私だけではなくここを通りがかるモンゴル人たちの目にも留まるようで、展示担当者の解説を聞きながらある家族連れが熱心に眺めていた様子が印象に残っています。
ですが、展示パンフレットの表紙に採用されている作品は、他の作品とは現実の風景と写真の風景の関係が逆転しています。つまり、緑の現実に砂漠化した風景のビルボードが立てられているのです。
これは、環境保護活動を通して息を吹き返す未来のモンゴル草原への希望を託した一枚なのだと私は考えています。これこそがLee氏の願いで、だからこそこの写真が表紙に採用されたのでしょう。
現在、モンゴル国政府は10億本植樹計画を推し進める等環境問題の解決に力を入れています。都市計画等があやふやになって当初とは別の方向に進んでしまったり、ある施設の建設に予定年月以上かかってしまったりすることも多いモンゴルですが、環境問題はいち早く取り組まなければならない課題の一つです。緑豊かな大地の「博物館化」が全国規模で現実となる前に、パンフレット表紙の写真のようにモンゴル人たちが自らの手で自分たちの土地を復活させることを私も願っています。
本展示では、こういった写真の他に遊牧民や彼らの生活を被写体とした写真も飾られていました。ウランバートルのシャングリラ・モールに訪れる際は、ぜひこの展示も見てみてください。会期はそこまで長くなさそうですが…。
なお、本投稿の写真は全て筆者が撮影したものです。著作権等の問題も考えて、一部の作品のみ掲載しました。
*1 「Futuristic Archaeology」は2016年7月にイタリアで初めて展示されたプロジェクトのようなので、今回の緑化のためのモ韓協力グループ事業のために作られた作品ではないと思われます。
コメント
コメントを投稿