2022年12月11日 犬ぞり@テレルジ国立公園(前編)

  日本からモンゴルへ大学の先輩が弾丸旅行に来てくれました。何かのツアーに申し込んでいるというわけではなく、本当に単身での旅行のようだったので、私の知り合いの日本語ができる元運転手のおじいさん(以下Tさん)に、今回の旅の運転手兼ガイドをお願いしました。

 先輩は土曜日にウランバートル観光、日曜日に犬ぞり体験というプランで来ていたので、私は日曜日の犬ぞりにお邪魔させていただきました(本当はウランバートル観光にも付いていきたかったけどコロナ感染で自宅隔離中だったので無理だった)。犬ぞりは今年2月に私が乗ったことのあるサービスが一番人気とのことで、そこに行くことにしました。

▼今回行った犬ぞりサービス


 今回利用した「Монгол морь, Нохой чарга」(モンゴル馬と犬ぞり)というサービスは、公式FBの紹介文によると、モンゴルで最初に犬ぞりツアーを始めたところで創業8年目とのこと。"New way of winter tourism"という文からは、最近までモンゴルは犬ぞりを観光資源として見出しておらず、犬ぞりはモンゴルの観光としては新しいかたちのサービスであることが窺えます。

 今回の日記は長くなってしまったので、前後編でお送りします。

往路

 9時半より少し前に先輩の宿泊するホテルに集合して、犬ぞりをやっているテレルジ国立公園へ出発。Tさんの車は娘さんから借りたアメリカ製のごついヤツで、草原へ旅行に出る雰囲気の演出にぴったりでした。この日は曇りで、空は雲で、地面は雪で、視界に白がいっぱいでした。

 犬ぞりに行くまでの道中では、先輩からはウランバートル観光の話や、私が既に疑問には思わなくなってしまったモンゴルの自然や町のあれこれの話を楽しく聞いて過ごしました。「モンゴルは山にあまり木が生えていない」という感想には、確かに!と新鮮な驚き。先輩の感想に対するTさんの「木が生えないのは北側。南側やてっぺんの近くは陽が当たるから木が生えるよ」というコメントにも、そういえば!と思いました。ちなみにこれは丘と言えるような低めの山に当てはまることで、アルタイ山脈などの高い山はきちんと頂上の方が剥げています。

 先輩の新鮮な目から見たモンゴルの様子を聞きながら、私は最近家と職場の往復だけで町も自然も見れていないので、もっと外に出て周りを見る生活をしよう…とも思いました。)


犬ぞり到着

 さて、犬ぞりに着くと困ったことが。この日は100人の団体客の予約が入っていて、飛びこみ参加はできないとのこと。犬ぞりの係の人曰く、平日は基本的に外国人の観光客のみで比較的暇な一方、土日はモンゴル人の観光客や学校等の団体客でパンパンなのだそう。数日前、私は事前に犬ぞりにメッセンジャーで連絡しようとしましたが返信がなかったので、「まあ当日でもいけるっしょ」というダメな方のなんくるないさ精神で放置していました。ちなみに、モンゴル人の団体客の一人は「私たちは1週間前から予約していたよ」とのこと。モンゴル人に1週間前から予約という概念が⁈という驚きがありました。

 この事態は早めに予約しなかった私のミスなので、うわ~やってしまった~と後悔。すると、モンゴル人のTさんは係の人に「この人は日本から犬ぞりに乗るために来たんだ。こっちはモンゴルで仕事をしている日本人。日本人が犬ぞりに乗るために来ているんですよ。たった2人なんだから何とか乗せてくれませんか」と交渉し始めました。モンゴル人は交渉能力(図太い神経とも言う)にたけており、一回ダメと言われてもちょっとやそっとでは諦めません。係のお姉さんが頑なにダメというので、Tさんはお姉さんの説得は諦めて別の係のお兄さんに交渉を始めました。すると、そのお兄さんは「ちょっと相談する」と言い、何かを仲間内で話し合うと、「団体は何グループかに分かれてそりに乗るから、2人だけならどこかのグループに押し込めると思う」と言ってくれました。Tさんの粘り強い交渉のお陰で、先輩と私は犬ぞりに乗ることができました。

 犬ぞり料金の支払いは食堂内のカウンターで行い、そりが始まるまで食堂であたたかいスーテーツァイを飲みながら待ちました。そりが始まるよと呼ばれることはなく、なんとなく外に行って係の人が出てくるのを待つスタイルのようです。

(何かのイベントに参加するたびに思うことではあるのですが、モンゴル旅行では往々にして次に何をどうしたらいいのか指示がないことが多いので、モンゴル語が分かるか周りに注意を常に払える人でないと難しい気がします。本当に観光立国になれるのでしょうか。)

 食堂の外に出ると、次に犬ぞりに乗るグループに対する説明が始まりました。さっきの係のお姉さんは「ダメっていったのに!」と言うものの、既にこっちがもうお金を払っていたので断ることはせず、あきらめて乗せてくれると言ってくれました。


地図になきスタート地点へ

 団体客は犬ぞりの前に乗馬コースをしてから行くので、私たちはTさんの車で犬ぞりスタート地点に先回りすることになりました。犬ぞり係の人が乗るジープを目印にスタート地点を探しましたがジープは一向に見えず、犬ぞり開始地点を示す看板やそこまでの地図は何もなく、係のお姉さんにもらった「北の方に続く道を道なりに行き、3つ建物が見える場所」という何とも雑な指示だけを頼りにスタート地点をめざしました。

 案の定迷ってしまい、その辺にいたおじさんに道を聞きつつなんとか辿り着くと、私たちが一緒に乗るはずだった犬ぞりが出発するところでした。急いでスタート地点の係の人に「犬ぞり乗せて」と頼むも、タイミングが遅くその一団に混ざることはできませんでした。仕方がないのでさっきの係のお姉さんに再度相談し、その次のグループに入れてもらうことになりました。

 どうやら次のグループの出発地点はさっきのグループの出発地点とは異なる位置で、またしても、係のお姉さんの口頭による指示を頼りに、前のグループが乗っていた犬ぞりを目視で探すという原始的な方法でスタート地点を探すことになりました。犬ぞりは柵に囲われた何かの建物の向こうに見つかりましたが、そこまでは道がありません。Tさんは「僕が新しい道を作ります」と言って、轍のない雪の中を走り始めました。

 犬ぞりにたどり着き、係のお兄さんたちにこれに乗せてくれるよう交渉しました。係のお兄さんAは「次の団体が来る前にそりに乗っちゃって。団体は大人数だから、来てから乗ろうとするとそりがなくなるかも」とアドバイスしてくれて、先に用意されたそりに乗ることに。若い係の人の上司らしきおじさんには「そのそりに乗るな!」と言われましたが、係のお兄さんBはいいよいいよと言ってくれたので、そりに乗ることができました。


そりについて

 今回乗った犬ぞりは、1台のそりに付き約10匹のシベリアンハスキーが引っ張って走ってくれるタイプのものでした。そりは2人乗りで、1人がそりの座席に座り、もう1人が座席の後ろに立つというスタイルです。座る方の人は暖かい毛布や上着に包まることができますが、立つ方の人は風に吹きさらしかつバランスが非常に重要という、同じ犬ぞりでもできる体験がかなり違う仕様です。先輩は座る方をご所望でしたので、私が立つ方になりました。

そりはこんな感じです

私たちを引っ張ってくれたシベリアンハスキーたち

 係のお兄さん(私たちが日本人と分かると日本語で挨拶してくれて、日本に行きたいと言っていました)がそりの乗り方を説明してくれました。係の人が使う用のストッパーは触らなくていい、立つ方の人が使うストッパーは、早すぎた時や係の人が指示した時に踏んで、等々。

 団体客が来て皆がそりに乗ると、犬たちがこれから出発することを察したのか、テンションを挙げて吠え始めました。私たちの乗ったそりのハスキーたちは結構やんちゃなようで、自分たちの出発の前から走りたくてうずうずしていました。

 ようやく自分たちの版が来ると、彼らは平らなところよりもボコボコな部分を通るというハードな走行スタイルを始めました。前の人と十分なスペースをとって出発しましたが、あっという間に追いついてしまいました。さすがに追い越すのは良くないと思いストッパーを全体重かけて踏みました。一応減速して追い越しはしなかったものの、か弱い日本人の私程度の指示では完全に止まりきることはありませんでした。


そり横転

こんな感じで楽しく滑れました
この動画では横転映像は出てきません

 犬ぞりの走ったコースはスリル満点でした。犬ぞりは端から見る分にはゆっくり走っているのかなと思いがちですが、実際に乗ってみると体感ではとても速く、小さい石や轍があるだけでかなり揺れ、命の危険を感じます。私たちの乗ったハスキーたちはなぜか道の少しボコボコなところを積極的に選び、急斜面でも原則せず、車の轍にどんどん突っ込み、そりが進行方向に対し斜めになってもお構いなしに走り続けました。

 ある程度走ったところで、ハスキーたちは前の方にいる別のそりを見て、そっちに早く行きたい!と思ったのか、ショートカットのために明らかに道ではないところを走り始めました。ハスキーの目指した先は川面が分厚い氷で覆われた川でした。岸辺から川に降りるということは、落差がすごいところを駆けおりるということに他ならず、私たちは30~50cmはありそうな段差に突っ込み、そして見事に横転しました。

 私は判断が遅く、そりに乗ったまま川に投げ出されてしまいました。すぐに立てたものの、久しぶりに転んだので、痛いという感覚以上に視界が回ったことにドキドキしてしまいました(ちなみに後で家に帰って膝を見たら紫色のあざができており、次の日の朝起きたら首を痛めていました。)。川で待機していた係のお姉さんは、他の係の人に「この人たち旅行者じゃない!なんでそっち行っちゃダメって言わなかったの!バカなの?!」と怒っていました。うちのハスキーたちがやんちゃだったばっかりに…。

 とはいえ、そりを立て直した後の凍った川滑りはスムーズに進み、非常に楽しかったです。私は当たり前になってしまいましたが、先輩は「今通っているところ川なの?!凍ってる?!」と喜んでおり、その感覚、逆に新鮮!と楽しむことができました。そうです、モンゴルの川は人や車が乗れるほど分厚く凍るんです。

 ゴール地点(これも川の上)にたどり着くと、係の人たちがハスキーたちと一緒に写真を撮ってくれます。係のおじさんが「このスマホはiPhoneより画質がいい、俺のスマホを使って撮影しよう」と言って、私と先輩とハスキーたちの写真を撮ってくれました。撮った写真は4枚までgmailで送付してくれます。

 その後、係の中のボスっぽそうな例のお姉さんに、乗せて下さりありがとうございますとお礼を言い、Tさんを待ちながら川面で写真撮影大会をしました。

凍った川面の上で格好をつける


後編へ続く

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