2023年3月15日 Baikal Bistroと避難ブリヤート人

 お世話になっているモンゴル研究(特にブリヤートとカルムイク)のAY先生がウランバートルに滞在中とのことで、モンゴル在住の他の院生の友人たちと協力して、モンゴル留学中の留学生でAY先生を囲む会食をセッティングしました。私は最近多忙と体調悪化を極めていたため、諸々の調整を他の院生にぶん投げてしまいました。留学生とりまとめとメニュー提案をしてくれたTH氏、予約と支払いをしてくれたSI氏両氏に感謝。
 今日の記事は以下の構成になっています。

1. 会食場所の基本情報:Baikal Bistro
2. 食べた料理
3. 良質なサービス
4. 避難ブリヤート人の受け皿としてのBaikal Bistro


1. 会食場所の基本情報:Baikal Bistro

 会食場所は「Байкал Бистро(Baikal Bistro)」という名前のロシア料理のお店。
 先生に面会のお誘いを頂いた時から、「折角なら先生の研究にゆかりのある場所にしよう」と考え、Baikal Bistroを選びました。「バイカル」という単語はブリヤート人が組織する団体名によく使われる印象があり*1、このレストランもブリヤートにゆかりのお店である可能性が高いだろうと踏んだのです。

店の外見

▽公式Facebook

▽公式Instagram


▽場所(太陽橋(Narny guur)の北側)



2. 食べた料理

 今回頂いたのは以下のものです。日本であまり耳にしない料理には一言解説をつけました。

サリャンカ、ボルシチ、ホーショール、クワス等々

ヴァレーニキ

ブリヌィ

【汁物】
・ボルシチ
・サリャンカ …東欧を代表するしょっぱ美味しいスープの一つ。
【サラダ】
・ヴィネグレットサラダ …玉ねぎやビーツをサイコロ状にカットしたサラダ。旧ソ連圏でよく見る。
・チェーザリサラダ 
【メイン】
・ヴァレーニキ …中身がマッシュポテトの東欧風水餃子。
・チーズホーショール …モンゴル(ブリヤート)料理。チーズを包み揚げたもの。
【デザート】
・ブリヌィ …東欧風の薄焼パンケーキ。ジャムや練乳をつけて食べる。
・ブリヤート・ボールツォグ …ブリヤート料理。ドーナツ風の揚げ菓子。
【飲み物】
・クワス …発泡麦ジュース。旧ソ連圏ではおなじみの飲料。

 どれもこれもロシアで食べた懐かしい味そのままで、美味しくいただきました。モンゴルの多くの店で提供されるロシア料理はモンゴルナイズされた味*2がするのですが、このお店の料理はロシアの味でした。


3. 良質なサービス

 予約時及び精算時のお店の対応が素晴らしかったので紹介します。主に対応してくれた方は、店主のA氏という女性でした。

①事前に料理のメニューを聞いてくれる
 今回の会食人数が11人と多かったため、店側が材料不足を避けるため事前に料理の注文を受けるという工夫をしてくれました。モンゴルのあらゆる飲食店で「その料理は提供できません(材料がないので)」攻撃を受け、料理が出ないのに慣れ切っていた私たちにとって、Baikal Bistroの「材料不足を回避するために事前準備をする」という姿勢は感動ものでした。

➁支払い時の対応
 今回の会食では、予約分の前払+来店後の予約外の注文分の後払の2回支払いが発生しました。
 前払の流れは、電話で予約のやりとりをした後にチャットで値段や口座番号等を確認し、入金後お店から再び電話がかかってきて改めて予約内容を確認する、といったものでした。モンゴルの飲食店で、ここまで何度も確認してくれる経験をしたことはありません。
 後払時も、前払分の伝票と追加注文の伝票を分けてくれました。レジで精算を行うときも、値段を何度も確認してくれるなど細かい対応をしてくれました。

 上述した内容は、日本の飲食店ではほぼ当たり前にやってくれるサービスですが、モンゴルの一般的な飲食店ではここまで丁寧な対応――言い換えると、起こり得るリスク(材料不足、精算時の混乱等)を回避するための工夫――は見込めません。もしかして、このレストランのオーナーはモンゴル人ではないのでは?という発想まで湧きました。


4. 避難ブリヤート人の受け皿としてのBaikal Bistro

 精算時、院生のSI氏と共にレジで店主A氏とやりとりしていた際、「あなたたち日本人?モンゴル語ができるのね」「このお店をどこで知ったの?」というよくある質問を投げかけられました。その際、私が昔ブリヤートに留学していたことを伝えると、A氏がお店について色々と教えてくれました。
 A氏が紹介してくれた店のスタッフのうち2人は、昨年9月にモンゴルにやってきたブリヤート人でした。通りで料理がロシアで食べた味な訳だと納得しました。彼らとの会話はロシア語で行いました。
 紹介されたスタッフの1人のB氏はウラン・ウデ出身の20歳でした。B氏は9月の部分的動員令発令直後にモンゴルへ避難し、現在はモンゴルの学生ビザを取得して店の近くにある私立大学へ通っているとのこと。私は先日、その大学の教員から、現在約300人の避難ブリヤート人がその大学に在籍していると聞いていました。B氏はまさにその1人で、現在学校でモンゴル語を学ぶ傍ら、Baikal Bistroでバイトをして生活費等を稼いでいるようです。B氏にブリヤート語はできるのか聞いたところ、彼以外の家族は皆話すが、彼自身は全くできないとのことでした。
 店主のA氏自身はモンゴル国のモンゴル人でした。彼女の他界した夫がロシア人で、彼女はロシア料理に親しみを持っていました。店を持つ前はモンゴルの某有名航空会社に勤めていましたが、退職した後に好きなことを仕事にしようと考え、ロシア料理レストランを開いたとのこと。
 これはあくまで私の想像ですが、A氏がロシア語に堪能であり(恐らく)ロシア関連コミュニティに顔がきくこと、店の立地が避難ブリヤート人の通う大学の近く等の複数の条件が重なり、Baikal Bistroは避難ブリヤート人の若者の受け皿となっているのかもしれません。避難ブリヤート人にとっては、全く自分の生まれ育った土地と縁のない店で働くよりも、店主がロシア事情に理解があり、ロシア語の通じる店の方が働きやすいのでしょう(ちなみに、スタッフ全員がロシア関係者という訳ではなく、その日給仕役をしていた2、3名の若者はモンゴル国のモンゴル人でロシア語は話せませんでした)。
 A氏曰く、このお店にはロシア人がよく来るとのこと。私たちが訪れた日には、モンゴル語で話すモンゴル人のお客さんもいました。Baikal Bistroは、地元のモンゴル人社会、在モンゴルロシア人社会、そして避難民コミュニティの交差点となっているようです。


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*1 有名どころで言うと、ブリヤート語の劇や舞踊を上映する国立劇場Theater Baikal、大学生中心の舞踊団体Baikal Waves等があります。バイカル湖は昔からブリヤート人の信仰対象であり、現在も多くの人々が休暇等で訪れます。日本人にとっての富士山に近い存在と言えば分かりやすいかもしれません。
*2 モンゴル料理屋で出る「ロシア料理」はそこはかとなく羊肉の匂いがして、油分が多めです。

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